奄美群島発祥で世界三大織物のひとつである大島紬(つむぎ)の泥染めに欠かせない染料シャリンバイから作ったインクを使った「島とアートを紡ぐ会」が3月8日・9日の2日間、徳之島町立図書館(徳之島町亀津)で開催された。
2010(平成22)年に徳之島で行われた米軍普天間飛行場移設反対運動(以下、移設反対運動)のプラカードをアートで表現した展示および懇談会。主催は米国出身で、早稲田大学で科学技術と芸術表現の融合などに関する表現工学部准教授の顔を併せ持つアーティスト、ジャック・ジェームズさん。妻が徳之島出身者で、度々来島する中、親戚の庭で剪定(せんてい)されていた常緑低木シャリンバイが染料となることを聞いたという。もともと身近な木や土からインク作りをしていたことからシャリンバイにも興味を持ちインク作りを開始。「皮を?ぎ長くゆっくり煮ると赤みが強くなり、火が強すぎると赤みが薄まってピンク色っぽくなる。昔の人がこれを発見し、試行錯誤しながら文化にしていったのはすごいこと」とジェームズさん。
伝統技術と社会性をかけ合わせたアート作品の制作活動を行う中で、徳之島での移設反対運動のプラカードを題材にした理由については、「徳之島のパワーを感じたから。徳之島は薩摩や米国など複数の支配下に置かれながらも自分たちの力で生き残ってきた。奄美群島の中で一揆を起こしたのは徳之島だけ。日本は強く言わずに黙るイメージがあるが、徳之島は強い。移設反対は平和でありたいと願う気持ちの現れ」と話す。
移設反対のプラカードをシャリンバイのインクで描くに当たり、「できるだけそのままを再現するように意識した」という。資料写真から読み取れない文字でもアレンジは加えず、見えたままを模写し、その力強さをはじめとした島民の思いを尊重した。
作品は、それらプラカードの文字を描いたもの数十枚と、大島紬の大きな魅力の一つである絣(かすり)模様を描いたもの数十枚を交互に貼り合わせ、一枚数メートルの大きな作品に仕上げた。「細かな点と線で構成される絣模様から、人と人、人と植物のつながりを感じてほしい。そしてその絣模様と、自分たちの未来を守るための移設反対運動を一つのアートにする意味を感じてほしい」とも。
来館者の中には実際に移設反対運動に参加していた島民も多く、懐かしむ声もあったという。4年前に関西から移住してきた男性は「今ここで暮らせているのは島の人々の努力の結果であることが分かった。アートを通していろいろな人が知るきっかけになれば」と話していた。
今後は東京やニューヨークでの展示も開催予定。ジェームズさんは「この作品には、小さな一つの地域から大きな未来を作っていけるというメッセージがある。諦めない気持ちや、目先の得だけにとらわれず大切なことを見失わない姿勢、困難は自分たちで乗り越えられるということを、アートを通して伝えていきたい」と話す。