沖永良部島出身のボクシングコーチ、武元前川(たけもと・まえかわ)さんと教え子らについて書かれた単行本「遺されたもの:南京都高校ボクシング部の物語」(ブレーンセンター)が出版された。
同書は京都新聞記者の後藤創平さんが同紙で約2年間にわたり連載した「武元前川物語」を編集、追加取材したもの。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太選手の活躍をきっかけに、同選手の恩師である武元さんについて知ってほしいと思ったことが始まりだったという。
執筆に際して、村田選手のほかにも、南京都高校(現・京都廣学館高校)ボクシング部卒業生で元WBC世界バンタム級王者の山中慎介選手や元WBA世界スーパーバンタム級王者の久保隼選手などのボクシング選手、指導者や経営者などさまざまな分野で活躍する約30人の教え子たちを取材。武元さんの人柄や教育哲学、教え子を通してのボクシング界に収まらない功績を伝えている。
後藤さんは執筆にあたって沖永良部島でも取材。武元さんと南京都高校を創立した本部廣哲さんは共に沖永良部島出身であることや、教育者を輩出する背景として流刑地として2年過ごした西郷隆盛が島民たちに教えを説いたことが書かれている。「小さな島で根付いた教育が京都まで届き、それが今も脈々と続いている。誇れること」と後藤さんは話す。
武元さんとは高校と大学で同じボクシング部だった菅村芳郎さんは「口数の少ない真面目な男。試合では前に出る、勝っても相手の前でガッツポーズをしないなど礼を重んじるなど、日本大学ボクシング部の精神を若い子に教えたと思う」と振り返る。
武元さん出身集落の正名字では30冊以上が購入されているという。後藤さんは「島の人が武元さんを知り、武元さんの最期について考えるきっかけになれば」と話す。
仕様は四六判、312ページ。価格は2,200円。