「いせん寺子屋」(伊仙町伊仙)で3月16日、「島のお年寄りの物語を詩と写真で伝える」が開催された。
ライフヒストリーを聞いた後に書き出した単語から詩を作るプロセス
講師はスコットランドの研究者サラ・ワーグナーさんと情報科学芸術大学の金山智子教授。12人の参加者は80代の地元女性で、大野節子さんのこれまでの暮らしに耳を傾け、心に残った単語をそれぞれ書き記し、それらをつなげて詩を作り発表した。その詩を元にアート作品を仕上げ、1人の女性の人生の物語を3編の詩とアートワークで表現した。
同ワークショップは、スコットランドの離島に居住し、ハイランド・アンド・アイランド大学の研究員を務めるサラ・ワーグナーさんが研究費を獲得し実現した。地域の歴史を継承するうえで大切な個人史の語りを「地域への贈り物」と捉え、聞いた人たちがその贈り物から感じたものを創造的に表現するのが主な目的。
ゲストとして招かれた大野さんは「戦中の稲作が雨水頼みだったこと」「自生する野草よりはキャベツの方がおいしく、それを食べたいといつも思っていたこと」「現代より物資は貧しかったが豊かで楽しい時間だったこと」など、感情豊かに参加者へ語りかけた。その間、参加者は心に残った単語やフレーズを思い思いに書きとどめ、それぞれが5~8のメモ書きを残した。その後、全体を3つのグループに分け、7歳~74歳の多世代にわたるグループ内でメモを合わせ見て詩の構成を考えた。
「火起こし」「風のお便り」「四季折々」「まずい」など同じ人物の語りから抽出される言葉は受け取った参加者により異なり、それを合わせると意外な組み合わせの詩の表現に変化する過程を楽しんだ。
3編の詩の発表後、それぞれの詩に基づいてアートで表現するセッションに移り、ここで子どもたちの目が輝いた。ある子どもはそこにあった紙コップに目を付け、ある子どもは初めて触るポラロイド写真に夢中になって大人とは異なる創造性を発揮した。
アート作品は、紙コップに詩のフレーズを書きお城のように立体的に表現したものや、「犬」というキーワードで詩がつながって循環する様子を渦巻きで表現するグループなど、趣向を凝らした作品が出来上がった。参加した餅田真理子さんは「子どもからお年寄りまで生きた時間も時代も違う者同士が、同じ体験を共有したように感じた。作品作りを通じて、一体感を感じたとても楽しいひとときだった」と振り返る。