徳之島伊仙町に住む大保健司さん家族が飼っていたボリスブラウンのピヨが10月27日、5カ月ぶりに家に帰ってきた。
今年6月の夕刻、いつも通り鶏小屋のゲートを開けて餌やりの後、隣のジャガイモ畑へ遠出したまま姿をくらまして5カ月、近隣を探し続けた家族が諦めた頃、見知らぬ畑のオーナーが穀物袋に入れて運んできてくれた。
烏骨鶏2羽、シャモ2羽、ボリスブラウン2羽を飼っていた大保家は、農協が開催する春祭りの販売会で4羽のボリスブラウンを購入。当時は生後2カ月くらいの中雛(ちゅうすう)で、ピヨピヨという鳴き声が愛らしい時期だった。ひなは家族の膝に乗ったり、後をついて行ったりと懐き、ペットのように情が湧きつつあったが、命を頂く経験をするために飼っていたため、愛着を持ちすぎないよう、トリサシ、ササミ、ネックと名付けていた。ピヨにはまだ、名前がなかった。
6月の夕方、小屋のゲートを開けて鶏小屋へ餌やりに入った際、鶏もいつも通り、庭へ出て草をついばんでいた。いつもは庭で自由に草をついばみ、遊んでから自然に戻るものの、この日はなぜかピヨのみ遠出して隣のジャガイモ畑へ移動していた。大保さんが捕えようと虫取り網を持って畑に入ったものの、追えば逃げ、餌付けにも興味を示さず、その日はサトウキビ畑の奥に消えていってしまった。それまでは遠くへ逃げても、餌を食べている最中に後ろから近づいて網で捕獲できており、また暗くなれば帰巣本能で戻ってくるだろうと待っていたが、結局その日は戻らず、大保さん一家の心配は募った。
それから毎日、朝夕の犬の散歩や仕事帰りに、消えたサトウキビ畑にいないか探し、畑の主や近くの鶏を飼っている知り合いにも事情を話して情報提供を呼びかけた。10月のある日、近所の鶏飼いのおじさんから「最近知り合いの畑で鶏を見るけど、あんたのでは?」と教えられ、逃げた方向とは逆の家から離れた畑にこっそり見に行くと、主が作業している横で草をついばむピヨの姿を発見した。大保さんは「猫や犬に襲われて死んでいると諦めていたので、生きている姿を見られただけでうれしかった」と感動し、畑の主にはあえて声をかけずに「元気で達者に暮らせよ」と心の中でお別れをした。
後日、事情を伝え聞いた畑の主が、ジャガイモ袋に入れたピヨを持って突然訪ねてきた。聞くと、数カ月前から姿を見かけ、普段は森の中にいて、夜は高い木の上で寝ていたという。「これからは、できるだけストレスをかけない環境で過ごしてもらい、鶏生を全うしてもらえるよう世話をしたい」と大保さんは笑顔で語る。