奄美群島各地から集まった7人の登壇者たち
提供:奄美広域事務組合 制作:奄美群島南三島経済新聞
奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島…。奄美群島と言ってもその環境は、自然、文化、島民性、そして課題、どれをとってもさまざまです。そんな各地で活躍する島興師(しまおこし)たちのチャレンジを本音で語ってもらうトークショー、「島サバクリエイティヴGCD(ガシド)」。2022年も開催されました。
GCDの告知ポスター
2015年から数えて今回で8回目。3回目から各島持ち回りで開催され、今年は3月6日に与論島で行われる…はずが、度重なる新型コロナウイルスの感染拡大により奄美市での無観客の事前収録に。そんないつもと違う雰囲気の中で行われたGCDでしたが、島興師たちの熱量は変わりません。むしろ、逆風の中にあってこそ強くなるのが島ンチュ魂。
プレゼン後は方言での「いきゃーしありょたかい?(いかがでしたか?)」という問いかけに、親指を立てて「ガシド!(その通り!)」と返すのがお約束
今回はこちらの方々が壇上に上がりました。
本記事は現場発・GCDレポートとなります。本編となる動画はすべてYouTubeで公開されていますので、気になるサバクリ(※)はリンク先よりご覧ください。また、各プレゼンの間には、各島の事業者のオンライン物産展(紹介)が行われております。
それでは、カモーン!イモーレ(いらっしゃい)!
※奄美の方言で、サバクリは「とりまとめる」「実行する」。
トップバッターを務めた徳之島出身の福本さん
観光ならぬ"感幸"を掲げ、徳之島で旅行会社「MUSUBIYA」を営むトクノシマンこと福本慶太さん。島を出て大学在学中も、毎月のように帰島してまちづくりに関わってきました。3年前にUターンし、徳之島町の地域おこし協力隊としても活動中。夢は「徳之島の地域肯定感の爆上げ」と「50年先も幸せに住み続けられる島にする」こと。
世界遺産登録は徳之島に大きな転機となった
世界遺産登録を受け、世界に対して自然や文化などの環境を守ると約束した一方、徳之島には外からさまざまな目が向けられました。福本さんのところに来る相談も、中には島への敬意がなく、ただ注目を集めたいだけではと憤りを感じるものも。島民自身が価値と向き合うことが重要だと考えた福本さんは、来島者と島民の素敵な出会いを約束する「MUSUBIYA」を設立。そこには、島民の暮らしを体験ツアー化して経済効果を行き渡らせる目的も。
最近では、世代を越えて島のためにできることを話し合うコミュニティ「a.k.a_TSUCHI_2.5」を設立。夢の実現に向かって邁進することを宣言しました。
栁田さんが経営するカフェは島ンチュも旅ンチュも訪れる
与論島でホテル運営と並行して、サスティナビリティコーディネーターとして持続可能な観光地づくりに取り組む栁田さん。かつて島は6人中1人しか島民がいないほどのオーバーツーリズムを経験しましたが、その後の国の海外旅行倍増計画の煽りを受け観光客は激減。Uターンした栁田さんは、空き地が多く人も少ない、明らかな衰退を目の当たりにします。
「自分が育った中央通りを活性化させたい」。しかし仕事に打ち込んだ東京時代と違い、仕事とプライベートの垣根がない生活に戸惑い、苦しんだ時期も。とくにそれを感じたものがおすそ分け。お返しをしても、それ以上のお返しがやってくる。感謝を返したいのに何もできないという状況がプレッシャーとなり、島の生活は月半分が限界でした。
栁田さんの取り組みは仲間たちと新たなステージへ
その後、親戚が開いた歯科医院の手伝いを通して宿不足の課題を知り、2018年にカフェを併設したホテルを開業。同業の方からも「人が来るようになってありがたい」という言葉をもらい、以前と違った形で島民の優しさを知ることに。現在は持続可能な観光地づくりと、起業者育成など教育分野に力を入れ、仲間とともに島の未来を創ります。
オムニバス形式でプレゼンする役者らしいスタイル
神主の家系に生まれた沖さん。26歳で東京・中野に居酒屋を開いた後、36歳でUターン。「頭の中を書いてみました」、そう言って壇上に映し出されたものは18の言葉。その場で選んだエピソードをオムニバス形式で話すという役者でもある沖さんらしいプレゼンです。
「好きな方言はタビンチュ(『外の人』の意味)です」。島では必ずしも良い意味で使われないけど、先祖もまたこの島に流れ着いたのなら、僕らはみんなタビンチュだったと言えるんじゃないか。そのように、見る角度を変えたり深度を深くすることで、いろんな問題が解決できるのではと話します。
与論産の牛をブランド牛として打ち出すヨロンアイランドビーフという事業も進める
そうした思想家の顔を持つ一方で、実業家でもある沖さん。畜産業を営む原田さんとともにヨロンアイランドビーフを設立。ブランド牛に育つ仔牛を出荷する与論島ですが、島民自身は島の牛肉を食べたことがほぼない。母牛が持つ濃厚な赤身肉を日本中の人に知ってもらいたいと「与論牛」を新たな島の特産品としてプロデュース。ぶれない思想を持ち、確かな実践を重ねる、そんな姿勢を感じさせました。
法被姿で六調を踊りながら登場
六調に合わせて壇上に上がった實川(さねかわ)さん。シマの伝統文化を愛する大島北高校3年生です。幼い頃から集落行事にどっぷり浸かってきた彼は、伝統文化が大好きで、「伝統文化は地域の資源であり、集落内の交流が活発になることで、人は助け合い心の豊かさが生まれる」と語ります。
そんな彼のサバクリのはじまりは、授業を通してお年寄りの話の聞き取りをしたときに「行事の参加者が少なく寂しい」「若者が参加しない」という話を聞いたこと。自分は大好きなのになぜと疑問に思った實川さんは同じ高校生にアンケートをとり、実は「興味はあるけど情報がない」という人が多いと知りました。
伝統文化、ひいては集落行事はコミュニティをつくると話す實川さん
集落行事の楽しさを伝えたいと考える中、秋名集落での集落作りのインターンを経験。手作りの伝統料理に観光客が喜び、地域の人から懐かしいと言われてうれしいと語るおばたちを見て、「地域の人が活躍できる場をつくることが大切なんだ」と考えました。春から群馬の大学に進学、今後の学びや経験を発揮できるよう頑張りたいと宣言します。
元気ハツラツな女子高生、一方で綿密な戦略家の顔も
「与論大好き高校生です!」、そう元気よく自己紹介したのは与論高校1年生の川畑さん。しかし一方で、彼女の口から語られた事業計画「インニャリパンニャリ~お菓子で与論をより良い島に~」は大人顔負けのものでした。
与論高校の1年生は28人。親が中高生だった頃は4~5クラスもあったと知り、川畑さんは「与論はこんなにも少子高齢化が進んでいるのか」と危機感を抱きます。自分に何ができるのか?島の基幹産業は観光業で、自分はお菓子作りが好き。そこで今よりもっと製品と与論の魅力を伝えられるお土産の事業を立ち上げ。事業名は祖母がよく話す方言「インニャリパンニャリ(ゆっくりしっかり)」からとりました。
川畑さんの動きが大きなムーブメントになる予感がするプレゼン
現在の商品案は「サンゴをモチーフとしたお菓子」と「もらった人が絶対に与論に行きたくなるお土産」。美術部、写真部、パソコンが好きな人、菓子作りが好きな人、高校生たちのスキルを集めて「与論高校生がつくるお土産」を世に打ち出します。産業振興、環境保護、高校生の社会参画、島のみんなが幸せになるためまさにパンニャリ練られた計画でした。
奄美群島の外国人人口データを見せる水嶋さん
「沖永良部島は奄美群島でもっとも外国人人口比率が高い」ー、そんなトリビアからはじまった水嶋さんのプレゼン。彼のサバクリは、外国人技能実習生と地域住民に交流が生まれるコミュニケーションツールをつくる。そのはじまりはベトナムへの恩返しにありました。
えらぶ二世として大阪で生まれ育ち、「クリエイターになりたい」という思いからベトナム移住。現地生活をつづったブログ「べとまる」をスタートさせ、ブログ関連の受賞など夢を叶えていきました。ベトナムへの恩返しを考えはじめた頃、沖永良部島で島民とベトナム人をはじめとした実習生の交流会に参加したことで「恩返しはルーツの島で」と移住を決意。
クリエイティヴなアプローチを貫こうとする姿勢
現在は、仕事などで使う用語とイラストを組み合わせたツール「COMIGRAM(コミグラム)」を開発販売中。新たな夢は、さまざまな外国人の母国語で満たすことで多様性を受け入れられる社会をつくること。最後は壇上で、「1年後までにベトナムフェスを開く」「5年後までに世界の日系人街を回って見聞録を書く」と将来の自分との約束を宣言しました。
柔和な雰囲気から一転、力強い歌声を披露するAKIKO TOGOさん
「こうして人前で歌うことがふしぎなほど引っ込み思案」と話しながら、キーボードの前に座る喜界島出身のシンガーソングライターAKIKO TOGOさん。音楽との出会いは図書館のオーディオコーナー。ソウルミュージックやジャズピアノと書かれたカセットテープから流れる音楽に懐かしさを感じピアノをはじめたとのこと。今もジャズを聴くとサトウキビ畑の向こうに広がる海が目に浮かぶ。そんな心の中を表現したいと音楽活動をされています。
演奏する1曲目は「みかんの木」。東京で一人暮らしをしていた頃に実家から届いた包み。入れられていたものを通して伝わってくる優しさと、お母さんへの想いを歌った歌です。
細やかな生活の描写を歌声にのせて母への愛を歌う
ライブハウスがあって、FM局もあり、島で音楽活動ができる。でもこれは当たり前じゃない。昔、親戚のお兄ちゃんたちは壁に布団を張って音漏れしないよう練習していた。そんな環境への感謝を伝えるには良い歌を歌えるよう精進したいと話し、2曲目は「Beautiful Smile」を披露。笑って頑張っていきましょうとみんなに力強いエールを贈りました。
全てのプレゼン終了後は、サイバー大学教授の勝眞一郎さんから、「どうやって持続可能なコミュニティをつくっていくか、次の世代を育てていくのか、それが共通していた。みなさんも今回の話を受けて、小さなことでもいいから挑戦や仲間づくりを進めてください」との講評で締められました。
今回文章で伝えられた情報は、イベントのほんの一部です。この人のサバクリが気になる!というものがあれば、ぜひYouTubeで公開されている動画本編をご覧ください。それでは、GCD2022のレポートでした。みなさん、いきゃーしありょたかい?(いかがでしたか?)
ガシド~!(最後に登壇者と関係者の全員で撮影)