神戸市出身で沖永良部島のルーツを持つ鈴木健一さんが11月23日、あしびの郷・ちな(知名町瀬利覚)で開催された沖永良部民謡コンクールに出場。一定の評価を認められた受験者らに贈られる新人賞を獲得した。コンクールでは同日に、優秀賞と最高賞を加えた3部門と、教師・師範免許試験を実施している。今回、鈴木さんにとっては初めての来島となった。
鈴木さんは、父方の祖母が知名町黒貫字出身の「えらぶ三世」。昨年のコンクールは飛行機が着陸する直前に集中豪雨に阻まれ、出発地の沖縄に引き返して来島すらかなわず、出場を断念。2度目の挑戦となった今回は、一日早く予定を組んだり、便数の多い鹿児島経由に切り替えたりするなど、万全の準備で臨んだところ、無事に来島がかなった。
4歳で音楽を習い始め、ブラスバンドやオーケストラでの演奏経験もある鈴木さん。もともと民族音楽には興味があったが、民謡と出合ったことをきっかけは2018(平成30)年に喜界島出身の川畑さおりさんのシマ唄を聴いたこと。その後、喜界島三世の唄者のタナカアツシさんに師事して奄美のシマ唄を習い始め、東京にいながら奄美群島関係者のつながりが広がっていった。
しばらくたってから、島の人たちが集まる場やライブでシマ唄を披露していると、「沖永良部民謡も歌ってほしい」と言われることが増え、知名町出身の唄者の前田博美さんに相談したことで、2022年からオンラインで師事するようになった。「自称、二刀流」と鈴木さんは笑う。
鈴木さんはこれまでにも、10年以上前に出張先の徳之島から沖永良部島を遠望したことや、高校時代に自宅にあった沖永良部民謡のレコードをたまたま手に取っていたことを思い返し、今回の来島に至るまで「断片的なものがどんどんつながっていった」と振り返る。
コンクール前々日には、祖母が20歳ごろまで暮らしたという黒貫字を訪れた。道端で声をかけた地元の男性に祖母の旧姓を伝えたところ、すぐに祖母の生家があったであろう土地が判明。ネットの衛星写真では建物が見られたが、現在は取り壊され空き地になっていた。
コンクール関係者には鈴木さんの祖母を知る人や遠い親戚もおり、民謡とルーツのつながりも生まれた。鈴木さんは今回の来島と新人賞受賞を母親に報告したところ喜ばれ、「今度は家族みんなで行きたいと話している」という。唄者へのステップアップとして、次は優秀賞合格を目指してコンクールに出場するため、再来島を誓った。