
終戦間近の1945(昭和20)年、鹿児島航空基地を舞台に、国のために命を捧げた若き特攻隊員と仲間の整備士、その家族の心の葛藤を描いた舞台「流れる雲よ」徳之島公演が9月13日・14日、天城町防災センター(天城町天城)で上演された。
劇中の後藤広明大尉のモデルは徳之島伊仙町出身の樺島資彦さん。15日には、いせん寺子屋「樺島資彦さんが残したもの」として靖国神社の権禰宜(ごんねぎ)、元海上幕僚長、樺島さんが出撃直前に一夜を過ごした学友の息子などが登壇し、戦争の記憶が風化しつつある現代に、樺島さんの故郷・徳之島で、その功績と平和の尊さを考える貴重な時間となった。
特攻隊ミュージカル「流れる雲よ」は、演劇集団「アトリエッジ」により全国公演されて26年目を迎える。同公演は後藤大尉の妻役を演じる俳優の池田恵理さんが役作りのために単身徳之島を訪れ、樺島さんの親族や島の人々と交流を深める過程で、7年の歳月を経て実現した。戦争経験者が少なくなり、その記憶が薄れる中で、実在した「特攻隊」をメインに歴史の真実を見つめ、「優しく強い日本人」が存在したことを訴えかける舞台は、多くの聴衆の涙を誘った。
上演翌日に伊仙町教育委員会により開催された「樺島資彦さんが残したもの」講演会には約50人が詰めかけた。特攻隊第78振武隊長として、25歳の若さで沖縄の海に散った樺島資彦さんを「英霊」としてだけではなく、未来を担う子どもたちを心から愛した「先生」としての側面を語るため、特攻隊戦没者慰霊顕彰会の藤田幸生会長、靖国神社権禰宜の野田安平さん、樺島さんの突撃前に会い「ある特攻隊の死」という手記を残した学友・白河部定さんの長男・白河部健さん、俳優・池田恵理さんが登壇した。
池田さんからはこの日に至るまでの多くの人々との出会いと上演実現までの苦労が語られ、靖国神社権禰宜の野田安平さんは、戦地からの手紙や教師として残した「学級経営案」、遺書を解読・解説した上で「100年後の日本を考えた時、喜んで飛び込みます」「友よ、あせるな」と書き残した樺島さんの心情や人柄について語った。元小学校教員だった白河部健さんは、父定さんが手記に残した樺島さんの様子やその時の覚悟について、当時の戦況や時代背景も含めて語り、会場に居合わせた資彦さんの家族にとっても新たに知る樺島さんの足跡を知る機会となった。
来場した10代女性は「軍服に身を包んだ樺島さんは笑顔で、私が同じ状況であれば心の底から笑顔でいられるのかなと思った。でも今を生きる私の価値観で物事を見るのは良くない。きっと家族や子どもたちのことを考えていたのでは」と話していた。