NPO法人「奄美ブルースカイ」(伊仙町面縄)が飼育する雄ヤギのソラが3月末、竹製の柵を破壊して脱走を試み、約500メートル離れた牛小屋へ出現した。
飼い主の手がかりがなかったため牛小屋のオーナーは警察に届け、徳之島警察署は伊仙町役場へ全戸放送を依頼。ソラはすぐにブルースカイ農園に戻ったものの、数日後に2度の脱走を試み、再び同牛舎に出現した。その先には愛おしい雌ヤギの存在があった。
春の強風や雨が吹き荒れる不安定な天候の下、伊仙町内に一斉放送が流れた。「伊仙町役場よりお知らせします。警察署から伊仙町内にて大きいヤギと小さいヤギが迷子になっていると報告がありました。東伊仙集落で預かっていますので、心当たりのある方は連絡ください」。
徳之島ではあまり珍しくない家畜のお尋ね放送だが、その頃、奄美ブルースカイ農園の施設長、阿部哲博さんは必死に脱走した親子のヤギを探していた。「子どものリクはまだおとなしいから心配なかったが、父親のソラは頭突きの名手で、通行人にけがをさせないかと心配して、2時間以上近隣を探し回った」という。放送を聞いた阿部さんはすぐに警察署へ問い合わせ、2頭を預かった牛舎へ駆け付けた。
無事に2頭を連れ戻し、現場検証のために竹製の柵を点検した結果、一部劣化した竹の柵をソラが頭突きで見事に破壊して脱出していたことが発覚。すぐさま施設のスタッフと共に補強・修繕に取りかかった。これ以上、近隣の人たちに迷惑をかけないよう抜かりなく修繕を終えたにもかかわらず、その2日後にソラは再び脱走を試み、再度同じ牛舎に現れた。
数百メートルもの距離がある中、なぜソラが同じ場所を目指すのか誰も理解できないまま、阿部さんは再び牛舎のオーナーに謝罪。農園に戻ってからは、ロープの先にコンクリートブロックを重石にし、さらにその上にプラスチック製パレットを載せ、二度と脱走できないよう用心したにもかかわらず、ソラは3度目の脱走を図った。その時は、くくりつけてあったコンクリートブロックと共に姿を消した。奄美ブルースカイのスタッフが、ソラがアスファルト上に残した白いブロックの引きずり痕をたどっていくと、同じ牛舎前にいるソラを発見。その時初めて、牛舎前の建物跡につながれた雌ヤギのメーがこちらを見ていることに気付いたという。
「通りかかったことも引き合わせたこともない雌ヤギのフェロモンが風に乗ってここまでたどり着いたとしか思えないが、その愛のパワーたるや、もはや感心するしかない」と阿部さんは笑う。